バトナージ(その23)

ヤライ「まぁ、核の件は冗談としてもだな――」
ヨウジ「ヤライ兄ィが言うと冗談に聞こえねーよ」
ヤライ「やはり、金銭より信頼関係が大切だと思うんだ」
ヨウジ「しつけェな。何言われようがオレの考えは変わんねェっての」
ユウキ「うーん……。ヨウジのように金銭第一主義というのも考えものですが、
    ヤライ兄さんの言う信頼とは、具体的にはどういうものなんでしょうか?」
ミライ「そこは押さえておきたいわよねー。
    信頼関係は大事だけど、お金がなくっちゃ食べ物が買えないっていうのも事実だし……」
ヤライ「ふむ。いい機会だ。ここは1つ、俺の考える信頼関係というものを発表しよう」
ユウキ「それは名案です!
    たとえヨウジでも、心変わりの可能性が無きにしもあらずですし」
ミライ「そうよね! ダーテングよりはマシになるかもしれないわよね!」
ヨウジ「オレの評価、すっげェ低いのな」
ヤライ「まぁ、物は試しだ。さっそく始めよう」
ヨウジ「時間の無駄遣いだと思うけどなぁ……」

ヤライ「――信頼関係が金銭より大切だと主張するのには理由がある。
    何といっても、自分の身が危険に晒されたとき、助けを求められるというメリットだ」
ヨウジ「異議あり。ボディーガードならカネで雇える」
ヤライ「たしかにボディーガードを雇えば安全を確保することは可能だ。
    だが、それは、自分を狙う敵がボディーガードより弱い場合のみに限られる」
ユウキ「なるほど。
    ボディーガードといえど、自分が敵わない相手に挑みかかるとは思えませんしね」
ミライ「普通、雇い主を置いて逃げるわよねー。自分の命のほうが大事だし」
ヤライ「その通りだ。
    それに比べて、信頼関係を築いた仲間ならば安心して背中を任せられる」
ヨウジ「そうかぁ?
    そう思ってんのはヤライ兄ィだけで、お仲間とやらはスタコラ逃げるかもしれないぜェ?」
ヤライ「フフフ……。そう来ると思ったぞ、ヨウジ。俺が予想していた通りの台詞だな」
ヨウジ「なんだと……?」
ヤライ「おまえが言いそうなことは、事前に頭の中で展開済みだ。
    そして、その主張を覆す、俺の体験談をまとめたレポートも執筆してある」
ユウキ「な……!? よ、用意周到ですね……。さすが兄さんです……」
ヨウジ「ハ、ハッタリだ、そんなモン! いくら兄貴だろうと、そこまでの準備は――」
ヤライ「ならば聞いてみるか……? 俺の体験談を……」
ミライ「が、画用紙!? ま、まさか本当に、前もって実話をまとめて――」
ヨウジ「ぐゥッ……! ――ふ、ふざけんな! 画用紙なんか持ち出しやがって!
    どうせ、鉄拳みたいなネタでごまかす気だろ! 騙されねーぞ!」
ヤライ「フン! ならば、しかと耳にするがいい! 俺とポケモンの偽りなき信頼関係を!
    ノンフィクションだ!」



ヤライ「俺たちは追われていた……。
    うっそうと生い茂る草木のなかにチラつく、無数の光る牙。
    親父の使いを終え、山道を抜けようとしていた俺とヨーギラスは、
    突如として現れたヘルガーの群れに恐怖し、必死で逃げ惑っていたのだ。
    飢えた野犬どもは、ノコノコと姿を現した御馳走を見逃したりはしない。
    ヘルガーたちのホームグラウンドということもあり、
    ヤツらの絶妙な追撃は、俺とヨーギラスに少しづつではあるが確実に傷を負わせてゆく。
    ヨーギラスと違い、山に慣れていない俺は幾度も転び、
    それが敵との距離を縮める原因となっていた。
    ――もうダメだ! このままではヘルガーたちのエサになる!
    絶望が脳裏をよぎり、もはやこれまでと諦めかけた刹那、ヨーギラスが動いた!
    草陰から、牙を剥いて俺に飛びかかってきたヘルガーに向かって、
    ヨーギラスはアイアンヘッドを見舞ったのだ!
    頑丈な頭から繰り出された一撃に、たまらず崩れ落ちるヘルガー。
    それを見ていた他のヘルガーたちは、恐怖のためか勇み足。
    次の瞬間、呆気に取られる俺を横目で見ながら、ヨーギラスが吼えた!

    『ヤライ! ここはおれに任せろ! おまえだけでも逃げ延びるんだ!』」
ヨウジ「ヨーギラスは喋らねーだろッ!!」
2008/10/30(木)