バトナージ(その55)

ユウキ「ヨウジ、もうムリをするのはやめましょう。
    本当は売れてないんでしょう? そのコイキング」
ヨウジ「ムリなんてしてねェよ。コイキング、売れてるっつうの」
ミライ「5000円もするのに?」
ヨウジ「それは、ユウキ兄ィたちだけだ。普段は50000円で売ってる」
ユウキ「そ、そんな……。売れるわけがないでしょう」
ヨウジ「そう思うんなら、コイツを目に焼き付けな。
    見ろ、現ナマ50000円だ」
ミライ「えぇえっ!? ま、まさか、ホントに売れちゃったの?」
ヨウジ「おうよ。
    金メッキのモンスターボールとセットで売ってたら、何を勘違いしたんだか、
    ムネんトコにRマークが描かれた服を着た男が、喜んで買って行きやがった」
ユウキ「詐欺じゃないですか」
ヨウジ「詐欺じゃねーよ。オレァひと言も、純金だなんて言ってねーし。
    つーか、買わねェなら帰れよ。見ての通り、オレァ1人でも立派にやって――」
ヤライ「フン。思い上がりも甚だしいな、ヨウジ」
ヨウジ「あァ?」
ミライ「ヤライ兄さん……」
ヤライ「1人でも立派にやって行ける、だと?
    おまえは、50000円もするコイキングを疑うことなく購入して行く人間が、
    世の中に溢れているとでも思っているのか」
ヨウジ「……」
ヤライ「そんなバカは滅多に居ない。
    おまえが手にしている、その50000円。
    いずれ、それを使い切り路頭に迷うことは、簡単に予測できるハズだ」
ミライ「そうよ、ヨウジ兄さん! こんなコトはもうやめて、みんなで家に戻りましょ!
    また、家族全員で――」
ヨウジ「ああ、うるせェ、うるせェ! 何を言われようが、オレァ戻らねェっつうの!
    ヤライ兄ィにゃ愛想が尽きたんだよ!」

ユウキ「ヨウジ、いくらなんでも、聞き分けが無さすぎますよ。
    僕らは、ヨウジのためを思って――」
ヤライ「ユウキ、ここは俺に」
ユウキ「ヤライ兄さん……?」
ヨウジ「んだよ、前に出てきやがって。やんのかコラ」
ヤライ「正直……、俺の側にも少しばかり非があったと、認めざるを得ない」
ヨウジ「少しだぁ? 全部だろうが!」
ヤライ「落ち着いてくれ。何も言わずに、これを見てほしい」

ユウキ「う、上手い!」
ミライ「え、何が?」
ユウキ「ヤライ兄さんは、先ほど、ヨウジを罵倒しましたよね?
    罵倒で気が立っているヨウジに、炎のドラムを優しく手渡し、信頼を得るつもりですよ!」
ミライ「そ、そっか! アメとムチの使い分けってヤツね!」
ユウキ「マフィアみたいなやり方ですが、これは効果的です!」

ヨウジ「こ、こいつァ……」
ヤライ「おまえのために、不思議のダンジョンで手に入れてきた物だ」
ヨウジ「だ、だけどよ……」
ヤライ「遠慮はいらん。受け取ってくれ。俺の気持ちだ」
ヨウジ「いや、でも……、

    何で、エロ本なんだ?」
ヤライ「ん……? ああ、すまん。
    それは、不思議のダンジョン探索中に拾った、コミックLOだった」
ユウキ「だから、どんなダンジョンを通ってきたんですかっ!!」
2009/07/05(日)