バトナージ(その53)

ユウキ「昼食の準備ができましたよ、ミライ」
ミライ「……」
ユウキ「ミライ、聞こえているんでしょう?」
ミライ「……」
ユウキ「ふぅ……。そうやって、部屋の隅で体育座りしていて何になるんです。
    朝食にも、ほとんど手を着けていなかったじゃないですか。ここのところ、毎日ですよ?」
ミライ「……ヤライ兄さん……、ヨウジ兄さん……」
ユウキ「ミライ、あなたの辛さは僕も分かります。
    しかし、今は、冬の寒さと戦う時期だと割り切って、耐え忍ばねばなりません。
    お願いですから、理解を――って、どこへ行くんですか?」
ミライ「キッチン……。お水……」
ユウキ「きのみジュースなら、ご覧の通り、食卓に――」
ミライ「お水だけでいい……」
ユウキ「ミライ……。

    ――はぁ……。年頃の女の子は繊細だと云いますが、それを身に染みて感じますね。
    って、なぜ、僕は、こんなに老け込んでいるんだろう。ますます気分が滅入って――」
ミライ「キャーッ!!」
ユウキ「ッ……!? どうしました、ミライ!?
    まさか、包丁で手首を切るなんていう、
    読者の皆さんが、どっぴきするような展開に走ったんじゃ――」
ミライ「キッチンの床から、ヤライ兄さんの首が生えてるッ!!」
ユウキ「ええーっ!?」

ヤライ「ん……? おお、ユウキ、ミライ、久しいな」
ミライ「しゃ、喋った……」
ユウキ「ほ、本物のヤライ兄さん……なんですか?」
ヤライ「何を言っている。兄の顔を忘れたか」
ユウキ「いえ……、顔は一致しているのですが、
    僕らの兄は、床から生える、などという、奇怪な生態はしていないハズなので……。
    というか、そこ、ぬかどこじゃないですか。僕が以前、足を踏み外して落下した。
    そんなところで何をしているんです?」
ヤライ「うむ。話せば長くなるのだが、まずは、ここから出してくれないか。
    前に、ヨウジと共に固く閉ざしてしまったせいで、自力では首までが限界でな」



ミライ「うわぁ……、凄い量の荷物……」
ユウキ「どうしたんですか、これは?」
ヤライ「ああ。
    俺が、この2週間、各地に点在する不思議のダンジョンで掻き集めてきた道具だ」
ミライ「ふ、不思議のダンジョン?」
ユウキ「そういえば、ぬかどこが不思議のダンジョンと通じているんでしたよね」
ヤライ「うむ。先ほど調べていたダンジョンが、この部屋と繋がっていたらしい。
    俺が、おまえたちと再会したことは、偶然というワケだな」
ミライ「え……。じゃあ、ヤライ兄さんは、また、ここを離れちゃうの?」
ヤライ「いや、その必要はない。すでに、目的の物は手に入れた。
    ――これを見てくれ」
ユウキ「こ、これは――」

ミライ「……なに……コレ……?」
ヤライ「ん……? ああ、すまん。――それは、探検中に拾ったペースメーカーだった」
ユウキ「どんなダンジョンを通ってきたんですか、いったい」
2009/06/24(水)