バトナージ(その50)

ヤライ「だいたいな、ヨウジ。ポケモンの生みの親、田尻智氏も、
    数々のデマに踊らされながら激動の時代を生き抜いてきた猛者中の猛者なのだぞ」
ヨウジ「あァ?」
ヤライ「そう。あれは忘れもしない、1983年、ファミリーコンピュータ誕生の年――」
ミライ「忘れもしないって……。その頃、わたしたちは、まだ生まれてないじゃない」
ヤライ「当時はゲーム雑誌というものがなく、そのことに、田尻氏は不満を抱いていた。
    世の中にはテレビゲームの書籍を求めている人間が数多く存在するのでは、と……。
    そんなとき、田尻氏は閃いた! 『ゲーム雑誌がなければ、自分で作ればいいじゃない』」
ユウキ「なんで、マリー・アントワネット風なんですか」
ヤライ「たぎる闘志を胸に、田尻氏はさっそく、
    ゲームのテクニックを紹介するための雑誌、ゲームフリークを発行した。
    当時の田尻氏は今ほど力を持っていたワケではないので、自費出版だったがな」
ユウキ「なるほど。
    田尻さんの歴史は同人誌から始まった、といっても過言ではありませんね」
ヤライ「うむ。――ほどなくして、ゲームフリーク第2号を発行したのだが、
    その号では、あの有名なシューティングゲーム、ゼビウスを扱ったのだ」
ミライ「あ、それ聞いたことある!
    黒い板を壊すために必死でボタンを押し続けるゲームでしょ?」
ユウキ「コミケのことといい、ミライの、オタクカルチャーに関する知識は偏ってますね」
ミライ「だって、よく分からないんだもん」

ヤライ「とにかく、ゲームフリーク第2号のクオリティの高さが認められ、
    田尻氏は、ゲーマーたちのあいだで、名士となったのだ。
    その最中、田尻氏は、1つの噂を耳にした。
    ゲーム内で、ある手順を踏むと、ゼビウス星が現れるというものだ」
ヨウジ「もしかして、それがデマだったっつーオチか?」
ヤライ「御名答。
    だが、田尻氏はこの噂を信じ込み、各地のゲームセンターで聞き込みを開始した。
    最も名の知られたゼビウスファンが躍起になっているということもあり、
    先の噂は瞬く間に広まってしまったのだ。
    それを聞きつけたゼビウスの作者、遠藤雅伸氏は、
    『子供たちを欺いて悦に浸っているヤツが居る』と激怒。
    ゼビウス星の噂自体は、遠藤氏が否定したことにより収束していったが、
    田尻氏は、詐欺師として、ゲーマーたちから迫害されることになってしまったのだ」
ヨウジ「ほら、みろ。デマなんつーモンを流したヤツはロクな目に合わねェ」
ヤライ「焦るな。この話しには続きがある。

    数ヵ月後――。
    地位も友人も失った田尻氏は、孤独感に苛まれながら、1人寂しくゲームをしていた。
    そんな田尻氏の元へ顔を出したのが、なんと、あの遠藤氏だったのだ。
    田尻氏が、地を這い、泥水をすする様な生活をしていると知り、
    わざわざ新宿のゲームキッズから居場所を聞き出し、訪ねて来たのだという。
    その後、遠藤氏は、ゲーマーたちを呼び集め、
    田尻君の非礼を許してあげてほしい、と告げた。
    田尻氏の著書によると、その場に集った者たちが手を合わせたあと、
    最後に遠藤氏が、上から両手で全員の手を硬く握りしめたという――。

    つまり、俺が言いたいことはだな、
    心から信頼を寄せられる仲間は、金銭にも勝るかけがえのないもの。
    それを否定するヨウジは――」
ヨウジ「話題がループしてんだろッ!!」
2009/05/27(水)