バトナージ(その27)

ヤライ「いよいよ、12月4日のポケモンアニメで来年の映画情報が発表されるのか……」
ヨウジ「……」

ヤライ「今から楽しみで仕方がないな。
    三部作の完結編に相応しいクオリティになることを願おう」
ヨウジ「……」

ヤライ「やはり今回も劇場でポケモンのデータの配布があるのだろうか?
    ――と、すると、やはり――」
ヨウジ「おい、ヤライ兄ィ」
ヤライ「うん? どうした、ヨウジ?」
ヨウジ「布団の中で独り言すんのやめろ。うるさくて眠れねーだろ」
ヤライ「いや。今日はなかなか寝付けなくてな。少し考え事を――」
ヨウジ「するにしても口に出すな。
    明日こそオレのスタイラーを修理しに行くんだからな。今日はしっかり寝ときてェんだよ」
ヤライ「む……。
    ――おまえは、孤独に打ちひしがれる兄と、自分のスタイラー――。
    どちらが大切だと言うのだ?」
ヨウジ「スタイラー」
ヤライ「即答とは……。
    ――おまえ、ミライが産まれたころから冷たくなったよな」
ヨウジ「亭主関白に悩む人妻みてェなコト言ってんじゃねーよ。気持ちわりィな。
    ――ったく……。フィオレに居たころなら、こんなふうに4人で雑魚寝なんてしなくても、
    一人一部屋づつだったのによ……」

ヤライ「とにかく眠れんのだ! 俺の目は冴えている!
    その鋭さは何ものをも見通すレントラーの眼力の如し!」
ヨウジ「だー、もう、うっせェ! ユウキ兄ィとミライまで起きちまったらどーすんだよ!
    寝れねーんだったら隣の部屋でテレビでも見てりゃいーだろ!」
ヤライ「あいにくと今夜は、めぼしい番組がなくてな」
ヨウジ「だったらDSでもやってろ! とにかくオレの眠りを妨げんな!」
ヤライ「ふむ……。仕方あるまい……。
    大合奏バンドブラザーズDXでもプレイするとしよう」
ヨウジ「イヤホン忘れんなよ! 絶対に音漏らすんじゃねーぞ!
    ちょっとでもゲームの音楽が聞こえたらブッ飛ばすからな!」
ヤライ「わかっている。苛立ちを抑さえろ、ヨウジ。
    音楽活動に励むものとして、イヤホンやヘッドホンは上質な物を揃えているのだ。
    音漏れはしないさ」
ヨウジ「チッ……。ホントに漏らすなよ」
ヤライ「ああ。その点において抜かりはない。――さっそくプレイ開始だ。
    ――うーむ……。どの曲にすべきか……。――おっ! これなんか良さそうだ!」
ヨウジ「ったく……。なんでオレが深夜に体力使わなきゃなんねェんだよ。
    このバカ兄貴はどんだけ人に迷惑掛けりゃ気が済むんだ。
    気のせいかオレばっかり兄貴の尻拭いしてる気がすんぞ。――だいたい――」

ヤライ「あっこーがれーよりー♪ あっこーがれーいじょーおのー♪
    ものをーいだーいーてーるー♪」
ヨウジ「カラオケやったらイヤホンしてる意味ねーだろッ!!」
2008/12/03(水)

ヨウジ「だいたい、歌詞、間違ってんじゃねーか!」
ヤライ「うん? どこだ?」
ヨウジ「サビの部分だよ。
    『ゆめをいだいてる』が『ものをいだいてる』になってただろ」
ヤライ「おお! よく気がついたな!」
ヨウジ「――なぁ、ヤライ兄ィ。
    オレたち作詞家はよ、毎日、必死に頭ひねって、いい歌詞を作ろうと頑張ってんだよ。
    だから、その努力をヴォーカルのミスで無かったコトにされんのは、すげェ悔しいワケだ。
    そこんトコ、理解してっか?」
ヤライ「ああ、わかってる、わかってる。
    ――む……。今日はどうも調子が悪いな。リズムに乗れん」
ヨウジ「いやいや、ぜってー判ってねーだろッ! んだよ今の適当な返事!
    つーか、なに、ゲームの攻略に戻ってんだよ!
    最初からオレの話しなんざ聞く気ねーって態度だなァ、オイ!」
ミライ「うぅん……。――なによぉ、うるさいわねぇ……」
ヨウジ「あ……、ヤベ……」
ヤライ「そら見たことか。ヨウジが騒ぎ立てたおかげでミライが起きてしまった」
ヨウジ「オレだけのせいじゃねーだろ! 原因はヤライ兄ィにほとんど――」
ミライ「2人とも……、いま何時だと思ってるのよ……」
ヨウジ「わ、わりィ、わりィ……。
    なんかよ、ヤライ兄ィが、眠れねェを連呼してて、うるせェんだよ」
ミライ「……ヤライ兄さん……?」
ヤライ「うむ。どういうわけか、毛ほどの睡魔も襲ってこないのだ。
    まるで、滋養強壮アーボックドリンクを飲んだ時のごとく」
ミライ「ふぅん……。何か心当たりはないの? 一日中寝て過ごしたとか」
ヤライ「いや。とくに普段と違う行動を取った覚えはないが……。
    ――強いて言えば……」
ミライ「強いて言えば?」

ヤライ「――夕方頃、俺は、すき家の新メニュー、豚トロ角煮丼に舌包みを打とうと、
    街へ繰り出したのだが――」
ヨウジ「そんなヒマがあんならオレのスタイラー直せよ」
ヤライ「そのときに、街中でスリーパーに出会ったのだ」
ミライ「スリーパー?」
ヤライ「ああ。何の変哲もない野生のスリーパーだ。珍しくもあるまい」
ヨウジ「まぁ……、たしかにな……」
ヤライ「で、そのスリーパーが手にしている振り子を目にした直後のことなのだが――

    気が付いたら病院のベッドで点滴を受けていた」
ヨウジ「あからさまに怪しーだろッ!!」
2008/12/10(水)