バトナージ(その24) ヨウジ「こんのクソ兄貴ッ! 何がノンフィクションだ! 思いっきり捏造しやがって! もうダメだ! 堪忍袋の緒が切れた! 今すぐボコボコにしてやらァッ!」 ヤライ「お前ごときが俺に勝てるつもりか?」 ユウキ「ちょ、ちょっと落ち着いて下さいよ、2人とも!」 ミライ「そうよ! こんな時間に騒いだら――」 ヨウジ「舐めんな! オレァ腕っ節には自信があんだ! 素手同士ならヤライ兄ィなんかにゃ負けねェんだよ!」 ヤライ「フン! 力押ししか出来ない単細胞が! 後悔することになるぞ!」 ヨウジ「上等だ、ゴラァアァァ――」 少女の声「ゴーゴーさーん、いらっしゃいますかー?」 ヤライ「ん……?」 ヨウジ「あ……?」 少女の声「夜分遅くに、すみませーん。わたし、隣の者ですー」 ユウキ「……ほ……ほらっ! 見たことですか! 言わんこっちゃないとはこのこと! ヤライ兄さんとヨウジが暴れたせいで、お隣さんを怒らせちゃったじゃないですか!」 ミライ「ど、どうするのよ2人とも!」 ヤライ「え……、あ……。ど、どうすると言われても……。なぁ、ヨウジ」 ヨウジ「う……、ああ……。――や、やっぱここはいつも通り、ユウキ兄ィが――」 ユウキ「お断りです! 今回の件の責任は、すべてヤライ兄さんとヨウジにあるんですからね! 2人の尻拭いなんて御免こうむります!」 ミライ「そうよ! わたしたちは何もしてないんだから出て行く必要ないじゃない! さっさと2人だけで謝ってきて!」 ヤライ「ぬぅ……。ミライとユウキの主張が正しいのは明白……」 ヨウジ「はぁ……。仕方ねェな。行ってくるか……」 お隣さん「あ! 初めまして! 夜遅くにすみません! わたし、隣に住んでる――」 ヤライ「申し訳ない!」 お隣さん「え……?」 ヨウジ「あーっと、その、なんだ……。今のドタバタは悪かった。 こんな時間に騒いじまって本当にすまねェ。頭下げるんで許してもらえねぇか?」 ヤライ「俺もコイツも頭に血が上っていてな。隣近所のことを考えている余裕がなかった。 未熟さゆえの過ちを許してほしい。この通りだ」 お隣さん「え? え? ――あの! 突然どうされたんですか!? なんで土下座を――」 ヤライ「もとより、この程度で許されるとは思っていない。 ディグダに穴を掘らせ、そこに頭を入れるタイプの土下座も辞さないつもりで俺は――」 お隣さん「いえ! そうではなくて! わたしがここへ来たのは土下座を見るためじゃありませんよ?」 ヤライ「え……?」 お隣さん「おすそわけのためです!」 ◆ ヨウジ「鍋の材料をオレらに?」 お隣さん「ええ。――今日はわたしの家で、お友達とお鍋をする予定だったんですけど、 皆さん、急な用事が入ったそうで……」 ヤライ「それで、自分が食す分を除く日持ちが悪そうな物を 持って来てくれたということか」 お隣さん「はい。この量をわたし1人で食べるのは無理があるので……。 ――あの……。ご迷惑だったでしょうか?」 ヤライ「いや、そんなことはない。ありがたく頂こう。――なぁ、ヨウジ?」 ヨウジ「おう! 食事当番の誰かさんがチンタラしてたおかげで晩飯はまだなんだ。助かるぜ」 お隣さん「それは良かったです! ――では、どうぞ!」 ヤライ「おお! 3人分はありそうだな。――ありがとう、感謝する」 お隣さん「いえいえ。こちらこそ助かりました。 今後、そちらがお困りの際は、遠慮なく、おっしゃって下さいね。 わたしの特技といえばモノマネくらいなので、お力になれるかは判りませんけど」 ヨウジ「ああ、そりゃ一生世話になる機会のなさそうな特技――もがッ!?」 ヤライ「ハ、ハハハ……。あんまり調子に乗るなよ、ヨウジ……」 お隣さん「フフフ。仲の良い御兄弟ですね。羨ましいです。 ――では、そろそろ、おいとまさせて頂きますね」 ヤライ「ああ。重ねて礼を言わせてもらう。ありがとう」 ◆ ユウキ「――で……、今日は鍋物ですか」 ヤライ「うむ。貰った材料だけで大半が賄えるため、食費が浮いたわけだな」 ミライ「兄さんたちの話し声を聞いてたんだけど、 お隣さんが感じのいい人で良かったわよねー」 ヤライ「まったくだ。――都会の人間は冷たい、などという話しを頻繁に耳にするが、 そんなことはない。ここヤマブキシティは温かい場所じゃないか。 ――おまえも少しは信頼関係の大切さを理解したか? ヨウジ」 ヨウジ「ん、まぁな。――本当は認めたかァねェが、実際にこんなことがあった直後だ。 今回ばかりはヤライ兄ィの言ってたことを信じてやるよ。 ――だがな、捏造の事実は消えねェ。 オレの気が変わったら今度こそヤライ兄ィを完膚なきまでに叩きのめしてやっからな。 そこんトコは覚えとけよ」 ミライ「フフッ。素直じゃないわよねー」 ヨウジ「う、うっせぇっ!」 ユウキ「ハハハ。――何はともあれ一件落着ですね。 ――それはそうと、鍋の中に随分と硬い物が入ってますね。何ですか、コレ?」 ヤライ「貰った材料が3人分ほどしかなかったものでな。 俺が用意した皮を入れておいたんだ」 ミライ「皮? もしかして鶏皮鍋ってやつ? さすがにフグの皮は冷蔵庫に入ってなかったハズだし……」 ヤライ「いや。冷蔵庫を探しても鍋の材料になりそうな物は見つからなかったもので……。 ――うぅむ……。やはり硬すぎて食材向きではなかったか……。 小太鼓の皮は」 ヨウジ「やっぱり今すぐブッ飛ばすッ!!」 2008/11/07(金) |