バトナージ(その22) ヤライ「……」 ユウキ「ただいま帰りましたー。今日はタマムシデパートでいいものが買えましたよー」 ミライ「限定20個の目玉商品だったんだけど、ちょうど最後の1個が手に入って――」 ヤライ「うーむ……。ここの難易度が若干高めか……」 ユウキ「おや? 今日もプラチナですか。相変わらず精が出ますね」 ヨウジ「いんや。しばらくは積みゲーの消化なんだとよ」 ミライ「え……? 積みゲー……?」 ヨウジ「ああ。ヤライ兄ィのヤツ、ここんトコ、買ったゲームを溜め込んでたらしくてよ。 それを終わらせるために集中してるんだと。――ホラ、そこに積み重ねてあんだろ?」 ユウキ「溜め込んだゲーム……? ちょ、ちょっと待って下さい! ――ヤライ兄さん!?」 ヤライ「うん? どうした? 今日の料理当番ならおまえだろう。 俺は見ての通り忙しい。話しがあるのなら食後にゆっくり――」 ユウキ「違いますよ! 僕が聞きたいのはコレです、コレ! このゲームの山!」 ヤライ「ゲームの山……? ――積みゲーがどうかしたか?」 ユウキ「どうかしましたよ! なんですかこの未プレイのゲーム群は! ――兄さん、このあいだ、お金が無いって言ってましたよね? ウナギが買えずにウナギパイで我慢するほど金欠だったハズですよね?」 ヤライ「ウナギを食べられなかったことが、そんなに悔しいのか?」 ユウキ「問題はそこじゃありません! なぜ大量のゲームソフトがこの家にあるんですか!? ここまで無駄遣いをすれば金欠にもなりますよ! 何を考えてるんですか兄さんは!」 ヤライ「そうは言うがな。ゲームには初回特典というものが存在しており、 発売日から一定の期間だけ無料で受け取れる仕組みだ。 ゆえに発売日から時間が経過していると、 あとからネットオークションなどで落とすハメになり、返って金銭を消費して――」 ユウキ「言い訳は聞きたくありません! だいたい兄さんがプレイしてるソレ、 大合奏バンドブラザーズDXですよね!? いらないでしょ、どう考えても! 僕たちは本物の楽器を持ってるじゃないですか!」 ヤライ「判っていないな、ユウキ。 ワイファイコネクションを用いた幅広い地域との交流は、 生の楽器を使用する演奏とは一味違った出会いをもたらしてくれるものだ。 俺たちが音楽の道を行くのは自己満足のためか? 違うだろう。より多くの人々に楽しんでもらうため――」 ユウキ「そうやって思わせぶりな話し方をすれば共感が得られると思いましたか? あいにく、その手には乗りませんよ。そんな手は情報弱者にしか通用しません!」 ヤライ「ぬぅ……。 ――し、しかし、おまえだって無駄遣いの1つくらいはしているのだろう?」 ユウキ「とんでもない! 僕は限られた金銭を有効に使っています! 神と呼ばれしポケモンに誓い、決して無駄遣いなどしていません!」 ミライ「――さ、さすがね……。ユウキ兄さんが言うと説得力があるわ……」 ユウキ「褒めて頂き光栄です」 ヤライ「む、むむむ……。 そ、それならばユウキ! おまえは親父からの仕送りで何を購入しているというのだ?」 ユウキ「バネです!」 ヨウジ「すげェ無駄遣いだ!!」 2008/10/12(日) ユウキ「聞き捨てなりませんね、ヨウジ。 バネを購入することのどこが無駄遣いだと言うんです?」 ヨウジ「いやいや、無駄遣いだろ、どう考えても。いらねーよ、バネなんて」 ユウキ「バネとは、素晴らしい伸縮性を持つ世紀の発明品です。 その魅力が判らないなんて、どうかしているとしか思えませんね」 ヨウジ「ぜんぜん悔しくねーや。 ――ま、ヤライ兄ィの積みゲーと大して変わんねーわな。役立たずっつートコが」 ヤライ「なんだと……?」 ミライ「役立たずは言い過ぎだけど、たしかにヤライ兄さんはゲームを溜め込み過ぎよね。 わたしも無駄遣いだと思うなぁ……」 ヤライ「むむ……。言ってくれるじゃないか。 ならば、おまえたちは無駄遣いをしていないとでも言うのか? ――ミライ。おまえは仕送りの大半を化粧品や服に使っているだろう」 ミライ「う……。そ、それはホラ……。 仕方無いじゃない! わたしはゴーゴー4の紅一点! わたしが、みすぼらしいカッコしてたらファンたちがガッカリするでしょ!」 ヤライ「そんなことはない。ミライは、ありのままが1番かわいいぞ」 ユウキ「ベタなセリフですねぇ」 ヨウジ「ヤライ兄ィは脳ミソ、化石だろ」 ヤライ「と、とにかく……。――ヨウジ。おまえもどうせ無駄遣いしているんだろう?」 ヨウジ「バカ言うなよ。オレァ兄貴たちみてェに無駄遣いなんてしねェっての」 ユウキ「本当ですか? ヨウジは欲望に忠実ですからねぇ……。怪しいものです」 ヨウジ「あーあ。これだから、カネの価値を判ってねェ人間はダメなんだよなぁ」 ヤライ「それならばヨウジ。おまえは仕送りの金銭で何を購入したんだ?」 ヨウジ「個人的に買ったモンはニンテンドーDSとポケットモンスタープラチナだな。 あとはホワイトデーのとき、ミライにプレゼントを買ったくらいだ」 ユウキ「え……? ちょっと待って下さい! 僕らがここへ来てから、すでに9ヵ月が経つんですよ!? それにも関わらず、購入したものはそれだけですか!?」 ヨウジ「おうよ。 オレァ、いつ大金が必要になっても慌てねェよう、日頃から、しっかり貯金してんだ。 なんつっても、カネはこの世で1番信頼できるもんだからな。 警察だろうと政治家だろうと大金さえありゃあ動かせる可能性があるんだぜ? そんな大事なモンをホイホイ垂れ流してるようにヤツらは、 今に後悔することになるだろうよ。オレはそんなバカどもと違って貯蓄してるってこった」 ヤライ「ぬぅ……。た、たしかに貯金するという行為は大切なことなのかもしれない。 しかし、金銭を1番信頼しているというのは、どうだろう。 心を通い合わせた家族や友人の存在こそ、 現代を生きる荒んだ若者たちに最も必要なものではないだろうか」 ヨウジ「ハッ! そんな綺麗ごとは時代にそぐわねーよ。 誰だってカネが1番大事だと心の中で思ってる。それこそ家族や友人なんかよりもな。 認めちまえよヤライ兄ィ。カネの切れ目が縁の切れ目なんだよ、この世は」 ヤライ「クッ……! 拝金主義の社会に毒されたか、ヨウジ。 おまえが、そこまで最低な人間だったとはな」 ヨウジ「おーおー、カネ持ってない人間が何言っても負けデルビルの遠吠えだな。 ま、せいぜい兄貴たちは無駄遣いを続けて落ちぶれてくれや。 オレァ節制を通して老後に備えとくからよ。ハハハ! ――んなことよりも、メシだ、メシ! 今日の当番はヤライ兄ィだろ? とっとと作ってくれよ。 ――ん……?」 ヤライ「ユウキ。ミライ。――金銭が不要な状況に持ち込むには、どう動けばいいと思う?」 ミライ「うーん……。お金に価値が無くて食べ物が買えない世界っていうのは?」 ヤライ「なるほど……」 ユウキ「そういえば、北斗の拳で見たのですが、 核で滅びた世界には金銭にまったく価値が無いそうですよ」 ヤライ「おお! それだ!」 ヨウジ「そこまでするか!?」 2008/10/20(月) |