バトナージ(その19)

ヨウジ「さ、さすがに親父は手ごわいぜ……。ヤライ兄ィの強化版って感じだ」
ユウキ「六畳一間に立体映像で現れるというシュールな展開にも関わらず、
    僕らと比べて威厳に満ちていますね」
ヨウジ「ま、そうは言っても今の親父は立体映像だ。
    ダンボールに入ってる装置の電源を落としちまえば――」
ラゴウ「無駄なことを……。その程度の対策は怠っておらぬわ!」
ヨウジ「ぐッ――!?」
ミライ「ヨウジ兄さん!?」
ヤライ「何だ!? ダンボールの側面から何か飛び出したぞ!」

ヨウジ「――ぎ、ぎぃやあぁあァぁぁッ!! 目がっ! 目がぁァッ!」
ユウキ「ど、どうしたんですか!? 突然ムスカのモノマネなんか始めて!」

ラゴウ「ふはははは! 眼からマトマの実を食べるなど初めての経験だろう!」
ミライ「そんな! ひ、ひどい……」
ヤライ「ほら、ヨウジ。水差しだ。
    ――というか、こんなやりとりを最近どこかでしたような……」
ユウキ「それにしても実の息子だというのに容赦ないですね……」

ラゴウ「当然であろう。一組織を束ねていた私が幹部より格下では困る」
ヤライ「――なるほど……。親父の考え方はそれなりに理解できた。
    つまり俺たちに、自分以上の成果を上げろと?」
ラゴウ「わざわざ聞くまでもなかろう、我が息子ヤライ。
    聡明なおまえが、先ほどの会話で成すべきことを把握出来ていないとは思えぬが……」
ユウキ「僕らが気にしているのはその先にある問題です。
    仮に父さんを超えたとして、その先に待っているのはどんな生活だと思います?」
ラゴウ「……何が言いたい」
ヤライ「CDや本を出していると分かった時点で俺たちと親父はライバル同士――
    すでに商売がたきなんだ。このまま戦いを続けるというのであれば――」
ユウキ「親子としての情愛は薄れ、元の関係には戻れなくなるでしょう。
    同じ土壌で戦い続ければ、いずれお互いの心に憎しみが生まれるもの――。
    理屈ではないんです」

ラゴウ「……それが……何だというのだ?」
ヤ・ユ・ヨ・ミ「ッ――!?」
ラゴウ「人は誰しも今を生きようと躍起になっている。
    人生とは、ゴールに辿り着ける可能性が限りなく低いすごろくのようなもの。
    そのような激しい生存競争の中、本気で生き残ろうと思うのであれば、
    他の者に情けなど掛けている場合ではなかろう」
ヤライ「親父。あんたは人が感情を捨て切れない生き物だということ理解していないのか?」
ラゴウ「理解しているからこそ、こうして教えてやっているのだ。人の業を。
    生存競争に敗れ、地べたを這いずり回っている弱者たちの言い訳など不要。
    最後まで膝を折らなかった者だけが真の理なのだ」

ヤライ「――ふぅ……。さすが俺たちの親父だな。桁違いの覚悟だ」
ラゴウ「怖気づいたか?」
ヤライ「いいや……。それどころか俄然意欲が湧いてきた」
ミライ「ヤライ兄さん……?」
ヤライ「俺たちも本気で行こう。この期に及んで馴れ合いなど、野暮というものだ」
ラゴウ「ほう……」
ヤライ「あんたの覚悟、しかと受け取った。もう迷いは無い。
    俺たちの演奏で世界中を沸き立たせ、
    あんたとは比べ物にならないほどの人気を獲得してみせる!
    たとえ、それによってあんたが失墜することになってもだ!」
ヨウジ「ヤ、ヤライ兄ィ……」

ラゴウ「ふむ……。
    私から見れば、まだまだ感情の昂りに振り回されている感は否めぬが、
    その努力だけは買ってやろう。将来性はありそうなのでな」
ヤライ「フン。いずれ、そんな大口が叩けないほどの大物になってやるさ」
ラゴウ「ほほう。それは楽しみだ。私を失望させるでないぞ、ヤライ。
    ――では、そろそろ通信を切るとしよう」
ヤライ「待て! まだ話しがある!」
ラゴウ「うん?」

ヤライ「だいすきクラブのジラーチプレゼントに当選したから、
    親父にもジャポの実を分けてやろう」
ラゴウ「おお! これはすまんな! ――ええと……、DSは、と……。

    あ……。エンテイが踏みつけて壊したのだった」
ヨウジ「最後までシリアスで通せよ……」
2008/09/10(水)