バトナージ(その17)

ユウキ「いやー、無事に完売できてよかったですねー」
ヤライ「ああ。まさか午前中にすべて売り切れるとは思わなかったが」
ヨウジ「オレたちも、かなり有名になってきたってことじゃねーか?」
ミライ「うんうん! でも凄かったわね。
    人が多いっていうのは知ってたけど、あんなに密度が高いなんて思わなかったわ」
ヤライ「まぁ、これもいい経験だったな。
    それよりも、残しておいた本とCD、さっそく親父に送るぞ」
ユウキ「そうでした、そうでした。忘れちゃいけませんよね」
ヨウジ「ヘヘヘ。親父の驚く顔が目に浮かぶぜ」
ミライ「早く自分たちだけで稼げるようになって、父さんに楽させてあげたいものね」
ユウキ「ええ。父さんは現在、職にも恵まれていないようですし、
    ここは1つ、僕たちが親孝行――」
ヤライ「ストーップ!!」
ヨウジ「うおぉっ!?」
ミライ「な、なによヤライ兄さん! いきなり大声出して!」
ヤライ「――兄妹たちよ……。俺は今、恐ろしい問題に直面してしまった」
ヨウジ「あん?」
ユウキ「と、突然なんですか? 思わせぶりな態度で……」
ヤライ「親父が現在無職であることは、
    このあいだの、ポケモンレンジャープレイ時に判明しているよな?」
ミライ「う、うん……。あんまり認めたくないけど……」
ヨウジ「事実は事実だよな」
ヤライ「うむ。――で、問題はここからだ」
ユウキ「もったいぶらずに早く聞かせて下さいよ。問題とは何です?」
ヤライ「――あのな……。

    無職の親父が、いったいどうやって、今まで俺たちに仕送りをしていたんだ?」
ユ・ヨ・ミ「――ッ!?」



ユウキ「ちょ、ちょっと待って下さい。あまりの衝撃に頭が混乱してきました……」
ヨウジ「い、今まで考えたこともなかったぞ……」
ミライ「た、たしかに……、冷静になってみると、深すぎる謎だわ……」
ヤライ「だろう? これは重要事項のハズだ。もっと早く気付くべきだった」
ユウキ「ま、まさか父さん、僕たちに仕送りをするために盗みを……?」
ミライ「い、いくらなんでもそんな! 父さんが泥棒稼業だなんて!」
ヤライ「しかし、無職であるにも関わらず、俺たち4人分の生活費をまかなえるとなると、
    どこからか盗んでいると考えるほかないのでは……」
ミライ「そんな! ウソよ! 父さんが犯罪だなんて!」
ヤライ「す、すまん! つい軽率なことを口走った! 許してくれ!」
ユウキ「落ち着いて下さい、ミライ。きっと、何か別の方法で父さんは――」
ミライ「で、でも……! もしかしたら父さんは……。うう……。ヤライにいさぁん!」
ヤライ「よしよし、大丈夫だ。俺が着いてるぞ、ミライ」

ヨウジ「――なぁ……。ちょっといいか……?」
ヤライ「どうした? おまえも泣きたくなったのなら我慢することは――」
ヨウジ「いや、そうじゃなくてよ……。なんつーか……」
ユウキ「……? なんなんですか? 言いたいことがあるならハッキリして下さい」
ヨウジ「そ、そうか……。じゃあ、遠慮なく言わせてもらうけどよ」
ヤライ「うむ」

ヨウジ「オレたちがいま持ってる、この楽器に仕込まれたスーパー・スタイラー。
シンバラってジィさんから盗んだモンだし、とっくに犯罪じゃね?」

ヤライ「……」

ミライ「父さんが犯罪なんてありえない! わたし、父さんのコト、信じてる!」
ヤライ「ああ! 俺もだぞ! ミライ!」
ヨウジ「聞こえなかったフリすんなよッ!!」
2008/08/20(水)