バトナージ(その17) ユウキ「いやー、無事に完売できてよかったですねー」 ヤライ「ああ。まさか午前中にすべて売り切れるとは思わなかったが」 ヨウジ「オレたちも、かなり有名になってきたってことじゃねーか?」 ミライ「うんうん! でも凄かったわね。 人が多いっていうのは知ってたけど、あんなに密度が高いなんて思わなかったわ」 ヤライ「まぁ、これもいい経験だったな。 それよりも、残しておいた本とCD、さっそく親父に送るぞ」 ユウキ「そうでした、そうでした。忘れちゃいけませんよね」 ヨウジ「ヘヘヘ。親父の驚く顔が目に浮かぶぜ」 ミライ「早く自分たちだけで稼げるようになって、父さんに楽させてあげたいものね」 ユウキ「ええ。父さんは現在、職にも恵まれていないようですし、 ここは1つ、僕たちが親孝行――」 ヤライ「ストーップ!!」 ヨウジ「うおぉっ!?」 ミライ「な、なによヤライ兄さん! いきなり大声出して!」 ヤライ「――兄妹たちよ……。俺は今、恐ろしい問題に直面してしまった」 ヨウジ「あん?」 ユウキ「と、突然なんですか? 思わせぶりな態度で……」 ヤライ「親父が現在無職であることは、 このあいだの、ポケモンレンジャープレイ時に判明しているよな?」 ミライ「う、うん……。あんまり認めたくないけど……」 ヨウジ「事実は事実だよな」 ヤライ「うむ。――で、問題はここからだ」 ユウキ「もったいぶらずに早く聞かせて下さいよ。問題とは何です?」 ヤライ「――あのな……。 無職の親父が、いったいどうやって、今まで俺たちに仕送りをしていたんだ?」 ユ・ヨ・ミ「――ッ!?」 ◆ ユウキ「ちょ、ちょっと待って下さい。あまりの衝撃に頭が混乱してきました……」 ヨウジ「い、今まで考えたこともなかったぞ……」 ミライ「た、たしかに……、冷静になってみると、深すぎる謎だわ……」 ヤライ「だろう? これは重要事項のハズだ。もっと早く気付くべきだった」 ユウキ「ま、まさか父さん、僕たちに仕送りをするために盗みを……?」 ミライ「い、いくらなんでもそんな! 父さんが泥棒稼業だなんて!」 ヤライ「しかし、無職であるにも関わらず、俺たち4人分の生活費をまかなえるとなると、 どこからか盗んでいると考えるほかないのでは……」 ミライ「そんな! ウソよ! 父さんが犯罪だなんて!」 ヤライ「す、すまん! つい軽率なことを口走った! 許してくれ!」 ユウキ「落ち着いて下さい、ミライ。きっと、何か別の方法で父さんは――」 ミライ「で、でも……! もしかしたら父さんは……。うう……。ヤライにいさぁん!」 ヤライ「よしよし、大丈夫だ。俺が着いてるぞ、ミライ」 ヨウジ「――なぁ……。ちょっといいか……?」 ヤライ「どうした? おまえも泣きたくなったのなら我慢することは――」 ヨウジ「いや、そうじゃなくてよ……。なんつーか……」 ユウキ「……? なんなんですか? 言いたいことがあるならハッキリして下さい」 ヨウジ「そ、そうか……。じゃあ、遠慮なく言わせてもらうけどよ」 ヤライ「うむ」 ヨウジ「オレたちがいま持ってる、この楽器に仕込まれたスーパー・スタイラー。 シンバラってジィさんから盗んだモンだし、とっくに犯罪じゃね?」 ヤライ「……」 ミライ「父さんが犯罪なんてありえない! わたし、父さんのコト、信じてる!」 ヤライ「ああ! 俺もだぞ! ミライ!」 ヨウジ「聞こえなかったフリすんなよッ!!」 2008/08/20(水) |