バトナージ(その16)

ヤライ「いよいよ、コミックマーケットが目前に迫ってきたな」
ユウキ「ええ。なんだか武者震いしてきました。完売できるといいですね」
ミライ「あ、そうだ! 今回わたしたちが販売するCDと本、父さんにも送ってあげない?」
ヨウジ「おお! そいつァ名案だぜ!」
ユウキ「いいですねぇ。僕たちのこちらでの活躍を父さんに知ってもらえますし」
ヨウジ「オレたちがテレビに出演したなんて聞いたら、親父の奴ビックリすんだろうなぁ」
ミライ「もう随分と会ってないものね。――今ごろ父さん、何やってるのかしら」
ヤライ「フフフ……。気になるか?」
ユウキ「当り前じゃないですか。実の父なんですから」
ヤライ「予想通りの返答だな。それならば見せてやろうではないか。親父の『現在』を」
ミライ「父さんの……現在……? それってどういうこと?」
ヤライ「判らないのか?
    親父がどんな生活をしているか。それを今からおまえたちに見せてやろうと言ってるんだ」

ユウキ「な……!? い、いきなり何を言い出すんですか、兄さん!」
ミライ「そ、そうよ! 父さんが住んでるのは遠く離れたフィオレ――。
    今すぐ会いに行くなんて無理が――」
ヤライ「誰が直接会いに行くと言った。現在の俺たちには、そんな時間も金も無い」
ヨウジ「じゃ、じゃあ、どうやって――」
ヤライ「これを見ろ」
ミライ「こ、これは……」
ユウキ「ポ、ポケモンレンジャー1作目のカートリッジ……。
    僕たちの記念すべきデビュー作ですね」
ヨウジ「そ、そいつが、どうしたってんだよ!」
ヤライ「おまえたち。
    2006年に放映された、劇場版ポケットモンスターアドバンスジェネレーション
    ポケモンレンジャーと蒼海の王子 マナフィのことは覚えているな?」
ユウキ「え、ええ……。――特別前売券を購入すると、
    ポケモンレンジャーに特別なミッションのデータを貰えた、あの映画でしょう?」
ミライ「あー、たしか父さんと一緒に観に行ったわよねー。
    ジャッキーって人がカッコよかったなー」
ヨウジ「そうそう! あの壁を走ったりできる運動神経に惚れぼれしちまってっ――て、
    うぉォッ! 思わずレンジャーなんか褒めちまった!」
ユウキ「無性に悔しいですね」
ヤライ「まぁ、映画の内容は置いといてだな。
    ――このカートリッジ内には、その特別なミッションが入っているわけだ」
ユウキ「なるほど。しかし、それが父さんの現在と、どのような関係があるんです?」
ヤライ「じつはな……。このダブルミッションの1つ、
    「だいじなタマゴをとりもどせ!」に、ゴーゴー団解散後の親父が登場するんだ」

ユ・ヨ・ミ「な、なんだってーっ!?」
ヤライ「フフフ。驚いただろう」
ヨウジ「そりゃ驚くだろ!」
ユウキ「ええ! まさか、父さんが特別なミッションに出演していたなんて……」
ミライ「と、いうことは……」
ヤライ「うむ。この特別なミッションをプレイすれば、親父のその後が分かる」
ヨウジ「――す、すげェェッ!」
ユウキ「やりましょう! 今すぐやりましょう!」
ミライ「はやく、はやくぅ! ヤライ兄さぁん!」
ヤライ「落ち着け、兄妹たち。
    ――えぇと、これを選んで、と……。よし! ミッションスタートだ!」



ヤライ「お。ゴーゴー団の残党が妨害してきたぞ」
ユウキ「この残党、父さん抜きで組織復活とか言ってますね」
ヨウジ「ふてぇヤロウだ」
ミライ「えーい! やっちゃえ、やっちゃえー!」



ヤライ「んんっ!? この演出は、もしや……」
ヨウジ「く、来るか? 来るのか?」

ミライ「きたーっ!!」
ユウキ「うわっ! 懐かしい! 父さんですよ! 僕らの父さんですよ!」
ヤライ「相変わらずの貫録だな」
ミライ「ドット絵でもステキーっ!」
ヤライ「おおっ! 残党を締め上げてタマゴを取り返した!」
ヨウジ「親父、つえぇッ!」

『ラゴウ……さん。いまは なにを?』

ユウキ「あ! レンジャーさんが核心に迫る質問をしましたよ!」
ヨウジ「たまには役に立つじゃねーか。レンジャーのヤツ」
ヤライ「うむ! ついに親父の現在が明かされるのだな!」
ミライ「いったい、どんな生活してるのかしら? ワクワクドキドキ〜」

『とくに なにもしていないんだ』

ミライ「……」
ヨウジ「……」
ユウキ「……」
ヤライ「無職……」
2008/08/12(火)