バトナージ(その15)

ヤライ「さてと。入稿も済んだし、CDも完成した。
    あとはコミックマーケットが始まるのを待つだけだな」
ユウキ「完成した本にお目にかかれるのは当日ですから、緊張しますね。でも楽しみです」
ミライ「ここ数日は本当に忙しかったわね。ちょっと疲れちゃったな」
ヤライ「フフフ……。そう来ると思って、今日の夕飯は体力のつくものを用意したぞ」
ヨウジ「ん? 体力のつくもの……?」
ヤライ「ああ。土用の丑の日はもう過ぎてしまったが、
    せっかくだからおまえたちに食べさせてやろうと思ってな」
ユウキ「土用の丑の日? まさか――」
ヤライ「そう。そのまさかだ。
    漫画の執筆とCDの製作、本当にご苦労だった。これを食べて明日への活力としてくれ!」
ユ・ヨ・ミ「おおーッ!!」



ユウキ「……」
ヨウジ「……」
ミライ「わぁ……」

ユウキ「――あの……。兄さん?」
ヤライ「ん? どうした?」
ユウキ「これは……なんでしょうか?」
ヤライ「何って……。夏といえばこれだろう。
    遠慮する必要は無いぞ。存分に味わってくれ。今夜はウナギだ!」
ユウキ「いやいやいや! ウナギはウナギでも、これはウナギパイじゃないですか!」
ヤライ「なんだ? 不満か?」
ユウキ「それはそうですよ!
    土用の丑の日とか言われれば、本物のウナギが出てくると思うのが普通でしょう!?」
ヨウジ「つーか、わざわざ白飯まで下に敷きやがって! こんなもんで騙されっかよ!」
ヤライ「仕方がないだろう。今月の生活費は、本とCDの制作費に消えていった。
    これでも無理をしたほうなんだぞ」
ユウキ「しかし――」
ヤライ「くどいな。おまえたちも少しはミライを見習ったらどうなんだ」

ミライ「ウナギの中骨を粉末にしてパイ生地に練り込むっていう発想が大胆よね〜。
    う〜ん、デリシャス〜」
ユウキ「うう……」
ヤライ「ほら見ろ。ミライは文句を言わずに食べているぞ」
ヨウジ「そりゃあミライは甘いモン好きだから――」
ヤライ「言い訳をするな。
    この状況で贅沢をしようとするおまえたちに比べれば、ミライは遥かに立派だ。
    今の俺たちは修行中の身。栄光をこの手に掴むためには苦難を乗り越えねばならんのだ。
    ゆえに俺たちは――」
ヨウジ「わ、わかった、わかった。今日はウナギパイで我慢するから勘弁してくれ。
    ヤライ兄ィの説教を聞いてたら朝になっちまう」
ヤライ「うむ。納得してくれたようで兄は嬉しいぞ」
ユウキ「納得しなければ頭ごなしに叱りつけてくるクセに……」
ヤライ「何か言ったか?」
ユウキ「いえいえ。なんでもないですよ」
ヨウジ「ああ、なんでもねェ、なんでもねェ。
    それより、とっと食っちまおうぜ。――ほら、ヤライ兄ィも自分の分持って来いよ」
ヤライ「いや。俺はいい」
ユウキ「?……。なぜですか?」
ヨウジ「まさか、兄貴だけ、どっかで本物のウナギを食ってきたんじゃ――」
ヤライ「失礼な! 俺が1人で抜け駆けをするとでも思ったか!

    神羅万象チョコの食べすぎで満腹なだけだ!」
ヨウジ「そいつを我慢すりゃウナギ買えただろ!!」
2008/08/06(水)