バトナージ(その10) ミライ「う〜ん。やっぱりヒメリパイは格別よね〜。 あ、ヨウジ兄さん。そっちのオレンタルトも取ってくれる?」 ヨウジ「おう!」 ユウキ「どうやら機嫌が直ったようですね」 ヤライ「うむ。――『女子には甘いもの』。 このことはこれからの人生でも役に立ちそうだな。覚えておこう」 ユウキ「僕が靴底に隠していた1000円札、あとで返してくださいね。 ――ところで兄さん。さっきから手にしている紙はなんですか?」 ヤライ「ん? ああ。これはな、俺の計画書だ」 ユウキ「け、けいかくしょ……?」 ヤライ「詳しい説明は今からする。――おい。ミライ。ヨウジ。ちょっと集まってくれ」 ◆ ミライ「どうしたの? 急に改まって」 ヤライ「これを見てくれないか」 2008/07/01(火) ヨウジ「――あん……? なんだこりゃ?」 ユウキ「見たところ……何かのプロットのようですね」 ヤライ「そのとおり。これは俺が考えた本のプロットだ」 ミライ「ヤライ兄さんが考えた本……? いったい何のために?」 ヤライ「うむ。じつはな。近々、自費出版で本を出そうと思っているんだ」 ユウキ「じ、自費出版? それはまた唐突な話しですね。どういう風の吹き回しですか?」 ヤライ「近頃、インディーズ――会社に頼らずアーティストが独自に行うCDリリースが、 厳しくなってきていることは知っているな?」 ユウキ「ええ。最近は『絶対に売れる!』と、確信のある物ばかりが持てはやされ、 駆け出しのアーティストが作ったCDはオーダー数が激減しているらしいですね」 ヤライ「その通り。悲しいかな、この世には、『いかに楽して儲けられるか』 ということばかりに主眼を置く人間が溢れかえっている。ヨウジのような人間がな」 ヨウジ「オレがたとえかよ」 ヤライ「そこで俺は思い付いたわけだ。 店舗で扱ってもらうのではなく、自分たちで販売するという案を」 ミライ「じ、自分たちで販売……? つまり露天を出すの?」 ヤライ「そうではない。この世には、あらゆる表現の自由を許されたイベント―― コミックマーケットという大規模な催しが存在することを知っているか?」 ミライ「あ、それ、テレビで観たわ! 炎天下の中、10万人を越える人たちが長時間並び続けるお祭りでしょ?」 ユウキ「あ……、あながち間違ってはいませんが、目的は並ぶことではなく、 自分たちで作った本やCD、アクセサリーといった創作物の販売、又は購入ですね」 ヤライ「そのとおりだ、ユウキ。その催しで俺たちはCDを出そうと思う」 2008/07/01(火) ユウキ「コミックマーケットで、ですか……。 なるほど。インディーズを取り扱う店舗が慎重になりすぎている昨今、 そういった別方面からの攻勢を試してみるのもアリかもしれませんね」 ヨウジ「だけどよ、ヤライ兄ィ。今、CDを出すっつったよな? さっきは本を出すっつってなかったか?」 ヤライ「うむ。CDと本――、両方出す!」 ユウキ「りょ、両方ですか……。また大きく出ましたね」 ヤライ「やるならトコトンだ。今の俺たちは流れに乗り、ひたすら前進するべきだろう」 ユウキ「たしかに、先日のエンタのルギアさま出演で現在の僕たちはちょっとした有名人。 番組出演の記憶がお客さんの記憶から消えない内に、 何か大きなことをするべきかもしれませんね」 ミライ「さっき、プロットを考えたって言ってたけど、 つまりヤライ兄さんが、すでに本の内容を考えたっていうこと?」 ヤライ「ああ。百聞は一見にしかず。とりあえず読んでみてくれ」 ◆ ミライ「――……ねぇ……。ヤライ兄さん……。これ……」 ヤライ「感動したか? なんといっても、俺が数日掛けて考え抜いた構想だから無理もな――」 ユウキ「あの。『きょうはぱぱにおこずかいもらった。ぱぱだいすきー!』って何ですか?」 ヤライ「ん? ああ、すまん。間違えた。 それ、ヨウジが小さいころ使ってた日記帳だ」 ヨウジ「てめェ、ワザとだろ!!」 2008/07/01(火) |