バトナージ(その4) ヤライ「さてと。さっそくタマムシジムにやってきたワケだが――」 おっさん「にひひ。このジムは若い女の子ばっかりじゃ!」 細目の男「しかし、自分は年上のお姉さんのほうが好みでして――」 ヨウジ「なんか居るな」 ユウキ「ジム見学の方たちでしょうか?」 ミライ「そうは見えないけど……」 ヤライ「ほうっておけ。今は、ここのジムリーダーに会うことが先決だ」 ◆ ミライ「失礼しまーす」 エリートトレーナー♀「あら。挑戦者?」 ユウキ「いえ。こちらのジムリーダー、エリカさんと親しくさせていただいている、ゴーゴー4と申します。 本日は、エリカさんにお願いがあってまいりました」 ミニスカート「え? もしかして、エリカさんが話してた、素敵なバンドって、あなたたちのこと!?」 ヤライ「俺たちのことを知っているのか?」 ミニスカ「モチのロンロン! エリカさんが、このあいだ、 『素晴らしい演奏をなさっている、ゴーゴー4という方たちにお会いしました』って話してくれてぇ……」 エリトレ♀「それはもう生き生きとしていたわね。 あんなに楽しそうなリーダーを見たのは久しぶりだわ」 ヨウジ「ヤライ兄ィ。こいつぁ……」 ヤライ「うむ。俺たちに対する好感度は、かなり高いようだな。これは好機だ」 2008/04/21(月) ミニスカ「あなたがミライちゃん?」 ミライ「え? あ、うん。そうだけど……」 ミニスカ「へー。エリカさんが言ってたとおりだぁ。すっごく、かわいいね!」 ミライ「お、お世辞なんか使っても何も出ないわよ!」 ミニスカ「ううん。お世辞なんかじゃないよ。ホントに魅力的……。お顔、もっとよく見せて……」 ミライ「え? ちょ、ちょっと! そんなに近くで――」 ユウキ「兄さん。なんだか、2人の周りに百合の花が見えるのですが……」 ヤライ「俺もだ。ジムの中が植物園だから、というだけの理由ではあるまい」 ユウキ「しかし、ジムという響きから、もっと硬派な場所を想像していたのですが……」 ヤライ「うむ。てっきり俺は、カイリキーやゴーリキーが、輝く汗をほとばしらせつつ、 筋肉隆々な男たちと、がっぷり組み合っているサマを想像していたのだがな」 ヨウジ「聞いただけで暑苦しいな」 ミニスカ「ミライちゃん、かわいい、かわいい〜♪」 ミライ「ひゃん! み、耳はダメ……。ヤ、ヤライ兄さん……」 ヨウジ「呼んでるぜ」 ヤライ「ああ。ミライが気の毒だし、そこはかとなく注意してこよう」 ユウキ「せっかく訪れたコネを手に入れるチャンスなんですから、遠まわしにお願いしますよ〜」 ヤライ「ちょっといいか?」 ミニスカ「ん? なぁに?」 ヤライ「変わった趣味の人間はウチの妹に触るな」 ヨウジ「直球すぎだッ!!」 2008/04/21(月) ヤライ「――と、いうわけだ。協力してもらえるか?」 エリカ「だいたいの事情はわかりました。それで、具体的には何をすれば宜しいのでしょうか?」 ヤライ「なぁに、簡単なことだ。あなたはテレビ番組のレギュラーを務めているだろう?」 エリカ「え、ええ。『趣味のポケモン園芸』という番組で司会をさせていただいています」 ヤライ「その番組のスタッフたちに、俺たちゴーゴー4の存在を伝えて回ってほしい。 出来るだけ魅力的なバンドだと思われるようにな」 ヨウジ「お、おい、ヤライ兄ィ。それだけかよ?」 ヤライ「なにがだ?」 ヨウジ「いや。オレぁもっと、『スタッフに俺たちを売り込んで、デビューに繋げてくれ!』とか、 積極的な要望を期待してたんだが……」 ヤライ「あのな、ヨウジ。よく考えろ。園芸番組のスタッフにバンドの出演を頼む馬鹿がどこに居る。 今回はあくまでも、俺たちの存在をテレビ局内の者たちに認知させることが目的だ」 ヨウジ「だ、だけど、そんな気のなげェ話し――」 ユウキ「急がば回れ、ですよ、ヨウジ。今は少しづつ外堀を埋めてゆくことが肝心。焦りは禁物です」 ヨウジ「チッ……。仕方ねェな……」 エリカ「どうかされましたか?」 ヤライ「いや、こっちの話しだ。気にしないでくれ。 それよりどうだ? 引き受けてもらえるか?」 エリカ「あ、はい! もちろんです。 私自身があなた方の演奏を素晴らしいと思う気持ちに偽りはありませんし、 これは、スタッフの皆様にもゴーゴー4を知っていただく良い機会となるでしょうから」 ヤライ「嬉しいこと言ってくれるじゃないか。交渉成立だな!」 エリカ「はい! 私では力不足かもしれませんが、出来るかぎり、ご協力させていただきます!」 2008/04/23(水) ユウキ「なんとか、うまくいきましたね」 ヤライ「ああ。タマムシジムのエリカといえば、 トップアイドルにも勝るほどの美貌と、清楚な立ち振る舞いが絶大な人気を呼んでいる。 それほどの女にゴーゴー4の宣伝をしてもらえれば、食いつかない男など居ないだろう」 ユウキ「なるほど。灼眼のシャナを見て、メロンパンが食べたくなるのと同じ原理ですね」 ヤライ「そういうことだ。人間とは好意を抱いている者が好む対象物を、ないがしろには出来ぬ存在。 エリカという支持者の多い人物が俺たちを好いている。 この事実は俺たちにとっての追い風となるだろう」 ユウキ「さすが兄さん。伊達に長男やってませんね」 ヨウジ「だけど、オレとしちゃあ、もうちょい欲張っても――うおぉぉッ!?」 ユウキ「ヨ、ヨウジ!? 大丈夫ですか!?」 ヨウジ「――いってぇ……。この! どこ見て歩いてやが――る……?」 ユウキ「え……? ミライ……?」 ヤライ「その格好は……?」 ミライ「に、兄さんたち……。やっと会えた……。 聞いてよ! さっきのミニスカートの娘が、無理やり私に猫耳やら尻尾を――」 ミニスカ「ミライちゃん、ドコ行ったの〜? もっともっと、あたし好みにコーディネートしてあげる〜♪」 ミライ「きたッ!! も、もうこんなトコ、こりごりよ! はやく家に戻りましょ、ヤライ兄さん!」 ヤライ「――え……? あ、そ、そうだな! 羨ま――じゃ、なかった! ウチの妹に、このような仕打ちをするとは不届き千万! 急いでこの百合ジムから脱出しよう!」 ヨウジ「百合ジムいうな!」 2008/04/23(水) |