部屋編その5(4部+ホワイトデー) ヨウジ「久しぶりだなぁ、シャバの空気は」 ミライ「そうね。外の空気をこんなにおいしく感じるなんて初めてだわ」 ヤライ「ところでユウキ。ここはフィオレじゃ無いんだよな?」 ユウキ「ええ。どうやらここはカントー地方のヤマブキシティという場所のようです」 ヨウジ「いったいどんなトコなんだ?」 ユウキ「どうやら、この国の首都らしいですよ」 ヤライ「なるほどな。巨大なビル群が経済大国であることを物語っている」 ミライ「あ! 兄さんたち、ちょっと来て!」 ヤライ「ん? 玩具店がどうかしたか?」 ミライ「ホラ、コレコレ!」 ユウキ「――これは……ポケモンカードゲームの最新作、秘境の叫びと怒りの神殿ですか」 ヨウジ「そういやぁ、今日が発売日だったな」 ミライ「ねぇねぇ、せっかくだから買ってみない?」 ユウキ「そうですね。父さんからの仕送りにも少し余裕がありますし――」 ヤライ「待てっ!」 ヨウジ「あ? んだよヤライ兄ィ」 ヤライ「おまえたち2人ともこっちへこい!」 ミライ「と、突然どうしたの?」 ヤライ「ミライはここに残っていてくれ」 ユウキ「な、なんなんですか、いったい?」 ヤライ「いいからこい! 路地裏だ!」 ヨウジ「いきなりなんだってんだよ? こんなところまで引っ張ってきて」 ヤライ「おまえたち……、今日が何の日か言ってみろ」 ユウキ「はい? だからポケモンカード最新作の――」 ヤライ「バカ野郎! おまえたちには感謝の心が無いのか! 一ヶ月前にミライからバレンタインチョコを貰っただろ!」 ユウキ「あ……! そういえば……」 ヤライ「やっと思い出したか。嘆かわしいことだ。 ――そして今日はホワイトデー。当然ミライに何かプレゼントを送るべきだろう」 ヨウジ「あ、ああ……。そりゃそうだけど今は――」 ヤライ「所持金が少ないな。 この上ポケモンカードを買ってしまえばプレゼントを購入する余地など皆無」 ユウキ「た、たしかに……。ですが――」 ヤライ「ホワイトデーのプレゼントを買うためにカードを我慢したとなれば、 ミライが気を使う……。そうだな?」 ユウキ「ハイ……」 ヨウジ「――ふぅ……。まいったぜこりゃ……」 ヤライ「こうなったら現在俺たちが所有している物をどこかで売って、資金を得るしかあるまい。 ミライに気付かれないようにな」 ヨウジ「う、売るっつったってオレたちにゃあ、金目のモノなんて何も――」 ヤライ「しっ! ここで1つ提案がある」 ユウキ「な、なんですか?」 ヤライ「以前から思っていたのだが……、 小太鼓はバンドに合わないから必要ないと思うんだ」 ヨウジ「魂胆見え見えだっつの!!」 2008/03/14(金) テレビ「新気鋭のラッパー、イマクニ&レイモンドは今週も絶好調ですが、 他のラッパーたちも負けじと巻き返しを図ってきました」 ユウキ「なんとか、ポケモンカードをホワイトデーのプレゼントにするということで、 難を逃れましたね」 ヤライ「うむ。思った以上に自然な流れで事が進んだな。 ヨウジのスタイラーが売却の憂き目を回避できてなによりだ」 ヨウジ「どの口が――」 ユウキ「しーっ! ミライが戻ってきましたよ」 ミライ「ふぅ〜。いいお湯だった。 ――あ! またテレビに出てるんだ。イマクニ&レイモンド」 ヨウジ「ああ。最近人気が急上昇し始めたラッパーだな。 オレたちもいつかテレビに出られるほど有名になってガッポリ稼ぎたいモンだぜ」 テレビ「ポッポ! ウツボット! プリン、ケーシィ、ベトベター!」 ユウキ「本当に凄いですよねぇ。すでに累計売り上げは100万枚を突破しており、 いまだに売れ続けているという話しです」 ヤライ「同時収録の『めざせポケモンマスター』もかなりの名曲だな」 ユウキ「まぁ、そうかもしれませんけど、 やはり、イマクニ&レイモンドの 『ポケモン言えるかな?』が1番売り上げに貢献してると思いますよ」 ヤライ「だがなユウキ。メインは『めざせポケモンマスター』のほうだ。 アニメのOPにだって使用されているし、知名度だってこちらのほうが上だぞ」 ユウキ「はい? どういうつもりですかいったい? まるで、CDが売れているのは 『めざせポケモンマスター』だけのおかげとでも言いたそうですね?」 ヤライ「そうは言っていない。 だが、売り上げの99%くらいは『めざせポケモンマスター』の力だろうな」 ユウキ「そんなわけないじゃないですか! 『ポケモン言えるかな』に注目していないのは、あくまでポケモンを聞きかじっただけの素人。 玄人であれば、おのずと『ポケモン言えるかな』を支持するに決まっています!」 ミライ「ちょ、ちょっと2人とも熱くなりすぎじゃ……」 ヤライ「玄人だの素人だのは大した問題では無い。大切なのは有名であるかどうかだ。 どんなに名曲であろうと大多数の支持を受けなければ埋もれてしまう。 つまり、主役あってこその脇役だな」 ユウキ「なんですかそれ! 脇役が周りでサポートするからこそ主役が輝けるんですよ! 悟空がフリーザを倒せたのは仲間たちのおかげでしょう!?」 ヤライ「アレは漫画だから、脇役が居ようと居まいが主役が勝つ」 ユウキ「ああ、そうですか! 兄さんがこんなにわからずやだったなんて知りませんでした。 もう顔も見たくありません。さようならっ!」 ミライ「あ……」 ヨウジ「お、おい、ヤライ兄ィ。ユウキ兄ィのヤツ、マジでキレてたぜ」 ヤライ「勝手にキレさせておけ。あいつは何もわかっちゃいないんだ」 ミライ「それにしてもユウキ兄さんがあそこまで怒るなんて珍しいわね。 ヤライ兄さんとケンカするのは大体ヨウジ兄さんの役目なのに」 ヨウジ「勝手に嫌な役、押し付けんなよ……」 ヤライ「まぁ、この件は、ほとぼりが冷めるまで気長に待とうじゃないか。 ――ところでミライ。今日おまえにあげたポケモンカード。 なにか、めぼしいモノは出たか?」 ミライ「あ、うん。レアカードはレジギガスが出たわ」 ヨウジ「レジギガスか……。なんつーか伝説のワリにはあんま強くない微妙なヤツだよな」 ヤライ「何を言うか。たとえ微妙であってもレジギガスはレジギガスなりに一生懸命やってるんだ。 コイツのように陰で支えてくれる者が居るから、シェイミやギラティナも活躍できる。 レジギガスは怪力の持ち主だと言われているから、まさに縁の下の力持ちだな。 ――うむ。主役が輝けるのは、やはり脇役あってこそだ!」 ヨウジ「ユウキ兄ィの前で言ってやれよ!!」 2008/03/16(日) テレビ「なんとあのイマクニ&レイモンドに挑戦者が現れました!」 ミライ「ヤライ兄さん……」 ヤライ「……」 テレビ「今宵はラッパー同士の魂をぶつけ合う、熱き戦いが期待できそうです!」 ミライ「ヤライ兄さんってば」 ヤライ「……」 テレビ「それでは挑戦者の入場です。圭一アーンド大石ー!」 ミライ「ちょっと無視しないでよ!」 ヤライ「おおう! ど、どうしたミライ!? レンジャーユニオンの討ち入りか!?」 ミライ「違うわよ! さっきからやってる貧乏ゆすりを今すぐやめて!」 ヤライ「――え……? そんなことしていたか?」 ユウキ「してましたね」 ヨウジ「気付かないでやってたのかよ……」 ヤライ「す、すまん。次からは気をつける……」 ミライ「まったくもう……。夕飯にもほとんど手をつけてないし……」 ユウキ「まぁ、兄さんが上の空なのもわかりますよ。だって明日は――」 ヤライ「そう! ポケモンレンジャーバトナージの発売日だッ!!」 ヨウジ「オレたちは出てないと思うけどな」 ヤライ「……」 ユウキ「――あーあ。兄さん落ち込んじゃいましたよ……」 ヨウジ「オ、オレのせいかよ?」 ユウキ「なんだかんだ言っても兄さんは出番を欲しがってるんですから、 気を使ってあげないとダメですよ?」 ミライ「たしかにこの問題は慎重に扱ったほうがいいわね」 ヨウジ「し、仕方ねェなぁ……。謝ればいいんだろ、謝れば……」 テレビ「ドゥーユーノー? オヤシロサマ。イエス・ヒナミザワ!」 ヨウジ「ちょっとテレビ消してくれ」 ヨウジ「あー、ヤライ兄ィ?」 ヤライ「……」 ヨウジ「部屋の隅で体育座りしてねーで元気出せよ。 たぶん回想シーンくらいでならオレたちの出番もあると思うぜ?」 ヤライ「回想シーンって……どんな……」 ヨウジ「えー、あー……。たとえばー……」 ヤライ「たとえば?」 ヨウジ「そ、そうだな……。バトナージのCMは覚えてっか? あのCMにレンジャーユニオンの技術最高顧問、シンバラが出てただろ?」 ヤライ「ん? ああ……。まだ確定したワケでは無いがな。 親戚や他人の空似という可能性もある」 ヨウジ「んー、まぁ、そうだけどよ。 仮にアレがシンバラだとすれば、ゴーゴー団についての話題も出るんじゃねェか? 親父とは長い付き合いらしいし」 ヤライ「因縁の仲という趣だが……」 ヨウジ「まぁ、そうなのかもしれねェけどよ。ケンカするほど仲がいいって言うだろ? ホラ、あれだ。ハブネークとザングースってヤツだ」 ヤライ「――ふぅ……。おまえは何もわかってないな」 ヨウジ「あ?」 ヤライ「じつは現在のザングースがハブネークを捕食することは稀なんだ。 これは奄美大島に放獣されたザングースがわざわざ危険なハブネークを獲らずとも、 他のポケモンを捕食することで充分生きながらえることが出来るためだろう。 さらにザングースの本種は薄明性。ハブネークは夜行性。 このように住み分けができている生き物同士が争う必要など皆無。 ゆえにおまえの意見は、ザングースとハブネークが宿敵という安易な思い込みによるところが――」 ヨウジ「調子に乗んなや!!」 2008/03/19(水) |